「イケムラレイコ — ...そして急に風向きが変わる」

Pacific ocean, oil on jute 120 x 160cm © Leiko Ikemura 2006

「...そして急に風向きが変わる」と題した本展覧会は、日本人アーティストであるイケムラレイコ(日本・津市生まれ)の2006年以降の政治的・哲学的な意味におけるディスコースを表しているといえるでしょう。さまざまなメディアを用いた風景、顔、彫像・フィギュア、植物を対象とした作品は、個人的な喪失体験(母の死)や東北大震災などを経てうまれたものです。人類は今日、転換期にきている、と。 脅威にさらされているという潜在意識の増幅。グローバル化が進み、戦争や民族移動が日常化した現代において、 アーティストとしてどのような姿勢を貫いていくべきか、イケムラレイコはこの展覧会を通して提示しているかのようです。

グラナダとセビリアの大学でスペイン文学とアートを学び、スイスで数年過ごした後、イケムラレイコは1980年代半ばからケルンとベルリンに暮らしています。20年以上にわたってベルリン芸術大学(Universität der Künste Berlin) の絵画を教えただけではなく、ベルリンを拠点とした活動は、東洋と西洋のアートの解釈・アプローチを繊細に織りまぜた作風でイケムラレイコの名を広く国際的に知らしめるところとなりました。大規模な個展やグループ展がドイツ語圏全土の、及び日本やオーストラリアの美術館で開催されました。2015年の8月には「プレリュード」と題し、歌川広重の19世紀のオリジナル浮世絵作品と並んで対比するかたちで彼女のドローイングシリーズを二週間にわたって当館「ハウス・アム・ヴァルトゼー」(HAUS AM WALDSEE) にて展示しましたが、このたび初めてここで個展を開催する運びとなりました。

30年以上前からイケムラレイコはつねに異国の出身であるが故の葛藤を作品に反映させてきました。ですが、それらのメランコリックな絵画や彫刻が、直接的な答えを差し出すことは皆無です。作品を通してヨーロッパの美術史と集中的にとりくんだ長い期間を経て、最近発表される彼女の作品は、ヨーロッパや東洋の精神史から古代にさかのぼるような、時代性を超えた価値のメタファーを感じさせます。こうしてイケムラレイコはモチーフをつねに、 内面のトランスフォーメーションが起こる開かれた場所としての次元に引き上げているのです。そうすることで、初期のころよりも改めて意図的にスピリチュアルな伝統の流れをくみ上げ、西洋的な芸術解釈とのみごとな混合をつくりあげているといえるでしょう。 (テキスト:Haus am Waldsee)