ギャラリー・カールステン・グレーヴェは当ギャラリーを代表する7人のアーティストを迎え、新たなグループ展「ファム・フラウエン・ウィミン(Femmes·Frauen·Women)」を開催いたします。ピエレット・ブロック、イケムラレイコ、ルチア・ラグナ、キャサリン・リー、ルイーゼ・ウンガー、ジョージア・ラッセル、クレア・モーガンの作品を展示し、各作家が独自の方法で探求する多様なテクニックを紹介します。本展が明らかにするのは芸術活動のいちばんの中心に何があるのかということであり、そこにリズム・色彩・時間性が三世代にわたる作家たちが収束してゆく点として現れます。どの作家の作品も自然と人工、インテリアとエクステリア、ユニークなものと反復的なもの、見慣れたものと奇妙なものなど、現代が抱える矛盾を問いかけています。
ピエレット・ブロック(1928年パリ生まれ・2017年パリ没)の先駆的なアプローチはジェスチャーそのものの繰り返しに基づいています。60年以上にわたって、点と線、そして選択した素材に応じた表面との関係性が彼女の作品の基本軸を構成してきました。多くの作品に用いられる黒インクは、支持体(多くは紙)に印をつけ、千変万化するニュアンスで振動し、制作中の偶然をも受容します。水が一滴多すぎたり少なすぎたり、筆の運びに迷いが生じたり、手から伝わる圧力といった事柄がしあがりを限りなく変化させます。展示作品は1977年から2017年までの、ブロックの40年にわたるキャリアを概観できるセレクションとなっています。「私は生涯、時の流れを描くことを追求してきたのだと思う...」今この瞬間に焦点を当てることで、ブロックの作品は心のなかへの冒険へと変貌を遂げます。そこでは安定した規則性とは対照的に、繰り返されるように見えるジェスチャーこそが多様であることが強調されます。それは、今この瞬間と突発性に結びついた時間性なのです。
キャサリン・リー(1950年テキサス州パンパ生まれ)の簡素化された抽象画は、リズミカルで抽象的なパターンの集合体であるグリッドとして組み立てられています。アメリカ人アーティストの彼女は、ペインティングの抽象化についてその魅力を語り、「私の作品は常に連続的であり、常に反復的です。それは時間へのしるしづけのようであり、世界に存在することを思い出させるもののようでもあります。」と言います。1970年代に始まった彼女のペインティングシリーズ「クアンタ」にはひとつひとつ区切られた細胞状のかたちが描かれ、複数の方法を用いて色で満たされています。何度も塗り重ねた色彩のレイヤーが自動的で規則的なリズムをもった呼吸を思わせ、筆の運びは存在を示すジェスチャーとなります。時間が時間、日、月という単位に分けられるように、すべての四角形はひとつひとつ異なっているという部分で共通しています。1990年代半ばに制作された彫刻は、ヨセミテ、ゾッチェ、ズイダーゼー、ドズレといった、作品タイトルにつけられた場所に結びついており、彫刻された先史時代の岩を思い起こさせます。
場所への結びつきはルチア・ラグナ(1941年リオデジャネイロ生まれ)の作品にも見られます。彼女の作風は自然なものと異質なものを組み合わせようとするものです。ラグナの作品の真の魅力は作品のなかに幾重にも重なりあう神秘的なディテールを鑑賞者が解釈することで明らかになります。ラグナは自宅の庭(『庭園 (Jardim)』と題された作品)やスタジオから眺めるリオデジャネイロの街など、彼女を取り巻く豊かな環境を余すことなく見事に描き出しています。巧みに並置された有機的なかたちと幾何学的なかたちが生み出しているのは、内部と外部の景色が衝突しあう、絶え間ない動きと変化の印象です。彼女の作品はきわめて多様なものや風景が上書きを重ねたように見え、具象と抽象の要素が混ざり合い、溶け合っています。ペインティングは表現力豊かでエネルギッシュであると同時に軽やかで流動的で、明るい雰囲気の光に満ちています。
ジョージア・ラッセル(1974年エルジン生まれ)は自身の作品について、「私は紙を切り、陰影のグラデーションで遊び、切り込みを入れる動きでリズムを刻み、そこから光を通します」と語っています。彼女の外科手術のように正確な身のこなしには熟練と忍耐が要求されます。「5分ごとに刃を交換します。5分を超えると能率が悪くなるので」 表面を切り開いて、彼女は現実と幻想のあいだで蜃気楼を作り出します。自然やその絶え間ない変容に触発されたラッセルは、人間の介入による自然破壊について心の奥深くの内省を述べています。2016年に制作された彫刻「Tradition Orale」は裂け目だらけのキャンバスであり、崇拝的なトーテムのかたちとして登場します。トーテムは、スコットランドからフランスに渡ったラッセルがフランス語を習得するための手段でした。
ドイツ人アーティスト、ルイーゼ・ウンガー(1956年バートザウルガウ生まれ)が没頭する創造の過程からは、建築的でありながら人のようにも見えるかたちが現れ、そこでは不定形のシルエットが暗い影のような幻想を生み出しています。彼女の作品は浮遊していたり台座の上で休んでいるようだったりと複雑であり、鑑賞者がそこで見る空間というのは、金属のワイヤで区切られたいくつかの透明なレイヤーが、内部と外部の境界線を描きだしたものです。この金属のネットワークがもたらす透明性は一番外側を包んでいる部分のつぎ目を壊し、それによって見えないものが見えるようになり、知覚は幻影となります。こういったプロセスを通じて、ルイーゼ・ウンガーはある状態が異なった状態へと移っていくさまとたわむれ、無重力の状態を常に保っているかのようなかたちを織りなすのです。
クレア・モーガン(1980年ベルファスト生まれ)は人間と自然との関係におけるアンビバレントさを探求する作品を発表しています。2023年作の「Nerve Ending」は2022年にパリで発表した旧作から着想したもので、暴力と脆弱性ということをさらに追究した作品です。ストーンウェアの作品が持つフォルムは紛れもなく歯を思わせるものですが、モーガンがそれを身体的・有機的な存在として提示することができるのは、サイズと表層の相互作用によるものです。紙に描かれた作品は残忍であると同時に繊細であり、現代社会における動物と人間の関係を軸に、有機物と人工物のあいだに横たわる緊張を強調しています。クレア・モーガンは作品を通じて「起こったかもしれないこと、あるいは今も起こりうること」から生じる可能性について、観る者を考察へと促します。
イケムラレイコ(三重県津市生まれ)は21歳のとき生まれ故郷の日本を離れ、ヨーロッパで美術と文学を学びました。スペイン、スイス、そして現在も在住しているドイツで暮らしたイケムラの印象的で多彩な作品群は東洋と西洋の出会いとも言えるでしょう。絵画から陶までさまざまな技法とテーマを持つ作品は地球や大地と自然に強く結びついていますが、想像の世界、特に日出ずる国の神話や伝説を思わせるような神秘的な力を帯びたものとなっています。2019年の作品「ピンクのなかに伏して (Lying Pink)」と「ピンクの雲 (Pink Clouds)」は西洋の風景画の要素を残しつつも構図的にはやまと絵を彷彿とさせます。イケムラの芸術のテーマは生命の循環、多文化、セクシュアリティなど多岐に渡ります。「二元論的なわれわれの世界」に挑むのが彼女の芸術であり、その世界の限界を超越していこうとしています。「イマジネーションは私の作品にある最も強い力です」と彼女は言います。このイケムラ独自のイマジネーションこそが観る者を旅へと誘います。その行き先は身近なものも不穏なものも描きだされた詩的世界です。
出展作家:ピエレット・ブロック、イケムラレイコ、ルチア・ラグナ、キャサリン・リー、ルイーゼ・ウンガー、ジョージア・ラッセル、クレア・モーガン
出典:ギャラリー・カールステン・グレーヴェ、プレスリリース
Galerie Karsten Greve Paris(ギャラリー・カールステン・グレーヴェ・パリ)
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