イケムラレイコ 光をもとめて、空と話す

Pietà in cherry red, 2023/94, tempera and oil on nettle, 160 x 110cm. © Leiko Ikemura.
Invitation Card, Lisson Gallery 2025

イケムラレイコ個展

「現代がはらむ不確実さは多くの問題をもたらしますが、同時に可能性も与えてくれます。女性像たちは新しいいのちを生み出し、それを腕のなかに、そして身体のなかに、自分自身の一部として抱きしめています。」

リッソン・ギャラリーでは、当ギャラリーでは初となるイケムラレイコの個展を開催いたします。過去30年にわたる制作のなかで扱われてきたテーマの数々を、テンペラ画からブロンズ像、ガラス造形まで、幅広いメディアを駆使した作品を通してご覧ください。インスタレーションは3.5メートルのウサギ/女性像である「ウサギ・ヤヌス」(2024年)を中心として展開します。手作業で彫刻されパティナ処理がほどこされたこの像は、ウサギと観音菩薩が組み合わさっており、円錐形の身体が外界に対する囲いとなって、守護霊のように休息を提供しています。母性に満ちたスカートにあけられた小さな穴からは星が投影されているようで、内なる宇宙を作り出しています。この巨像は二つの顔、つまり前方を見つめる顔と後方を向いている顔を持ちますが、イケムラの作品に登場する多くの分身やアバターを想起させます。その一部はサイズの小さなブロンズ作品やクリスタルで作られた頭部の像にも見いだすことができるでしょう。ヤヌス神のようなこの像は、対立するものをどちらか一方に決めてしまうのではなく、中間的な状態を表しています。それはまさに、イケムラが擬人化した生き物やもののようであり、あるいは光と闇、善と悪のどちらでもなく、むしろ薄暗い夕暮れや不確かな部分といった空間を通して探求しようとするものです。

うさぎはイケムラが繰り返し使うモチーフですが、月の表面にうっすらと浮かぶうさぎの姿を探す子供のころの遊びに端を発しています。しかし、彼女の制作活動のなかで初めて登場したのは、2011年の東北地方太平洋沖地震とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故を受けてのことでした。人と自然の両方が壊滅的な打撃を受け、動物の出生異常がその後頻発したというニュースを遠くの地から注視していたイケムラは、この神話的なウサギが神の使者として、また普遍的な苦しみ、回復、再生の入れものとして機能することを思い描いたのです。1990年にはその先駆けとなる作品「Hasen-Frau(ウサギおんな)」と題された小規模のブロンズ作品が登場しています。彼女の生み出した生きものが表に出てくるまでの数十年をどのように生き延びてきたかが分かると同時に、イケムラがキャリアの比較的早い段階でヨーロッパに定住して制作を行っていくという決断をしたことがドイツ語のタイトルから見てとれます。

神社のようなかたちのウサギ・ヤヌスをふちどるのは、われわれの星に棲む生物のオリジンを描きだしたような、牧歌的な森の風景を描いた3つの幻想的な風景画です。山あいや森の草地には、像が横たわったり顔が隠されたりしており、それらは土地と分かちがたく溶け合っているようにも、骸骨や頭蓋骨のようなすがたがその境界にとり憑いているようにも見えます。イケムラは「変容」と題した詩のなかで「私は見た/すべてが変わる/人は岩に/山に/海に変わる」と書いています。作品「赤のなかで眠る(Sleeping Figure in Red)」(1997/2012)では、静止した人物の姿をあざやかに捉えています。この作品では若い女性がうつぶせになり、頭を両手で抱えています。苦悩しているようにも見えますが、タイトルが示すように休息しているのでしょう。

イケムラは少女たちを、うつぶせの姿のほか、闊達とした様子であったり、浮遊していたり、泣いていたり笑っていたり、さまざまな姿で繰り返し登場させています。展覧会でピンクの背景の前で猫を抱いた少女とオレンジのなかでウエディング・ベールをまとった二人の少女「ブレイブ・ガールズ」(2022)をわきに従えているのは、三人目の「チェリー・レッドのピエタ」(2024)です。この少女も猫にも赤ん坊にも見えるものを抱きかかえ、魅惑的なその両目で、観る者を照り返すように見つめています。その姿は力強く反目してくるように見えながら、傷つきやすくナイーブでもあります。この恐るべき少女たちのために、イケムラはまたしても両極のバランスをとる道筋を見出しました。絵の具が粗いジュートのキャンバスにしみこみ、光り輝き、こちらを威圧するような存在感を放ちます。心理や気分を描いたポートレートであれ、二つのあいだを行ったり来たりするハイブリッドな存在であれ、イケムラが生み出したこの少女というオブジェクトは彼女独自の唯一のものであり、構築されたその世界と息の長さは大きな印象を残します。

開館時間:火曜日~土曜日、午前10時~午後6時

出典:リッソン・ギャラリープレスリリース

 

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