L’Invitation au voyage(旅への誘い)

Exhibition view: L'Invitation au voyage, Esther Schipper, Berlin, 2021. Photo © Andrea Rossetti.

現実世界での旅行が困難になり、今まで無謀とも思えるほどいとも簡単に享受してきた自由が疑問視される時代――この展覧会のタイトル「L'Invitation au voyage」はシャルル・ボードレールの詩集『悪の華』に収められている詩に由来し、自由に空想上の旅を行なおうと提案するものです。この詩において作者は彼の恋人をともに空想のなかへの旅に誘い込み、同時にフランドル絵画、オランダの風景、そして恋人の身体を暗示しています。この詩の有名な結びの言葉「Là, t'tout n'est qu'ordre et beauté, Luxe, calme et volupté.(そこではすべて秩序、美、豪奢、静寂、逸楽に満ちている。)」の一部は、1904年にマティスが描いた絵画のタイトルにもなっています。

「L'Invitation au voyage」は、世代や芸術的アプローチを超えて、夢やファンタジーの表現にインスピレーションを与え、影響を与え、発展させてきました。本展では先駆的な前衛芸術家であるHannah Höchをはじめ、Paula Rego、Almut Heise、イケムラ・レイコ、Yeesookyungなどの著名な芸術家から、Sarah Buckner、Cui Jie、Cordula Ditz、Tala Madani、Isa Melsheimer、Sojourner Truth Parsons、Shahzia Sikander、Tsai Yi-Tingなどの若い世代の習作的な作品にいたるまで、さまざまな作品が展示されます。

歴史的に夢や空想のイメージ世界には神話的、宗教的あるいは世俗的な天国と地獄が等しく存在しています。20世紀初頭、特に1900年にジグムント・フロイトが『夢判断』を出版し、夢とその解釈が科学的な探求対象となって以来、芸術によって日中の生活と夜毎の睡眠がどのように結びついているかが積極的に探求されるようになりました。夢は法的な規則、そして時間と空間からの解放として経験されうるものとなったのです。

「L'Invitation au voyage」展冒頭では呪術で呼び出したかのような音楽が流れ、夢が癒しをもたらす一方でやっかいなものでもあるという雰囲気を醸し出しています。訪問者を迎えるのはピアノソロのイメージです。不気味な感覚はAlmut Heiseの《Schaufenster》内のマネキン人形の静けさによってさらに呼び起こされます。この作品と同じ展示室にはPaula Regoによる3作品が展示されています。Regoの堂々たる作品《Caritas》(1993年)は古代ローマの慈善活動をモチーフにしており、感情みなぎるシーンのなかに幻想的な森の風景と親子を描き出しています。

イケムラレイコによる大型の絵画、Shahzia Sikanderの《Empire Follows Art: State of Agitation》シリーズからの4作品、そしてHannah Höch の5作品が展示されている室内では旅・冒険・文化的アイデンティティの折衝というテーマが展開されます。人物と風景を融合させたイケムラの3つの作品《東海道》、《東海道》、《創世記》は、東海道の旅を描いた広重の画期的な浮世絵のシリーズに着想を得ています。Sikanderの抽象化された翼のある人物は、競合する文化や歴史の間で様々にとらわれたり争ったりする状態を象徴しています。Höchの展示作品は、本人が旅好きだったこともあり、戦前の旅先で描いた水彩画、1937年の大作、そして1948年のコラージュ作品《Garten(庭)》で構成されています。1937年と1948年の2作品は、第二次世界大戦中に「庭を旅する」ことを余儀なくされた彼女が自然に目を向けたことの記録となるものです。

Sojourner Truth ParsonsとSarah Bucknerはそれぞれの人生を印象的なグラフィックと雰囲気のある作品へと昇華させています。Parsonsは日常生活の心理的側面とその空想を描き、感覚と感情を色・かたち・人物を通して表現しています。現実的な生活での出会い、そこから生まれた夢、本、映画――世界とそこでのすべての体験が、Bucknerにとっては詩的世界へと飛び出していく土台として機能しています。

第4展示室にはTsai Yi-Ting、Cordula Ditz、Tala Madaniの3人によって苦悩、強迫観念、トラウマのイメージが集められています。Tsai Yi-Tingの悲痛な絵は出産のトラウマを描いており、Ditzのペインティング上にプリントされたコラージュ画像は、19世紀半ばのアメリカにおけるスピリチュアリズムと初期の女性参政権運動の類似性を調べるものとなっています。また、Madaniの輝かしい作品は、屈辱的な状況に置かれた二人の人物をユーモアを交えて描いています。

Cui Jieの《International Space Station(国際宇宙ステーション)》は、Isa Melsheimerの新しいガッシュ作品とともに、サイエンス・フィンクションとディストピアの要素を描いています。黒く広がる地球上に大きくそびえ立つ国際宇宙ステーションは、科学的な協力関係を表すと同時に遠く隔っていることも表しています。Melsheimerの新作は、ヴェローナ近郊に建てられた回転する邸宅のヴィラ・ジラソーレと、ローマにあるブルータリズムが印象的な教会を創作の出発点としており、そこでは一匹のオオカミが獲物を食い殺しています。

Yeesookyungの作品は催眠状態で得た過去の実体験の物語に基づいており、見る者にピンクの小さな花が広がる様子を見せ、アーティスト自身の瞑想的でコンセプチュアルな習作をもとにしたペインティングとなっています。

昨年、夢やファンタジーは、日常生活に居座り続ける確実性のなさという緊張から解放されるものとして新たな重要性を帯びるようになりました。「L'Invitation au voyage」展では夢のような、あるいは幻想的な人物・身体・情景・風景を展示し、現実の境界線を引き裂いて現実への入口に存在する世界を垣間見せてくれるような作品を集めました。

本展のカタログは2021年5月に発行予定です。

参加アーティスト:Sarah Buckner, Cui Jie, Cordula Ditz, Almut Heise, Hannah Höch, イケムラレイコ, Tala Madani, Isa Melsheimer, Sojourner Truth Parsons, Paula Rego, Shahzia Sikander, Tsai Yi-Ting, Yeesookyung

出典: Esther Schipper

 

Esther Schipper(エスター・シッパー)
Potsdamer Straße 81E
10785 Berlin
Germany

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