ケンジ・タキ・ギャラリーにてこのたび、名古屋では10年ぶりとなるイケムラレイコによる個展「マインドスケープ(心情風景)」が開催される。本展ではとくに氏の彫刻作品を中心とし、信楽で制作されたものも含め、ここ5年の間に制作した焼き物を見られるほか、風景ペインティングやドローイングの新作も展示される。
日本ではとりわけ風景がメタファとして、四季折々の自然界の詩的なイメージを通して愛、願望、悲嘆といった人間の感情を表してきた。イケムラは5年以上前からそうした要素を作品に取り入れてきており、大型のペインティング („Isola“) 、繊細なパステルドローイングやモノタイプにもそれが表われている。擬人化された風景は、ときには不気味ささえ醸し出し、人の姿らしき像も動物や植物と混ざり合っていたりする。とくに樹木は人間のメタファとして雰囲気や関係性を反映している。
フクシマの原発事故以来、イケムラは命の儚さといったテーマと向き合い、「ボーンフラワー」、「メメント・モリ」や「Shigaraki mono bust」など苦悩を感じさせる作品を発表してきた。作家本人にいわせれば、今日のヒューマニズムは大きな変化を遂げつつあるという。潜在的な脅威が日に日に増大しつつある、と。そしてこう問いかけるのである:現代のグローバル化、戦争、大量移民の時代に、アーティストとしてどう意思表示するべきだろうか?
故郷を遠く離れ、アーティストの道をたくましく自力で切り開いてきたイケムラ氏にふさわしく、2015年作の「アマゾナス」シリーズではそのバイタリティが発揮されている。和紙にモノタイプを用いて表された、名もない旧時代の女性戦士アマゾナス。女性たち剣を携えているものの、その体にぴったりした衣服がまるで無防備で脆弱に映る。だが、その霊的で影のような表れは外的な見かけよりも内側からにじみ出る強さを示しているといえよう。
日本・津市に生まれたイケムラレイコがヨーロッパに暮らし始めて既に40年近くになる。大阪外語大で学んだ後、スペインに渡って美大で学びながら七年間暮らし、スイスに移ってからはスイス国籍を取得した。1985年以来、ケルンとベルリンを生活と仕事の拠点とし、1991年から2015年までベルリン芸大で教鞭もとった。国際的にも高い評価の集まるイケムラ氏は数多くの名だたる美術館で個展を催し、また多くの作品がプライベートや公的機関のコレクションに所蔵されている。近年では、ベルリンのハウス・アム・ヴァルトゼー(2016年)、 ケルン東洋美術館(2015年)、 静岡のヴァンジ彫刻庭園美術館(2014年)、カールスルーエ州立美術館(2013年)、東京国立近代美術館・三重県立美術館(2011-2012年)などにて大規模な個展が開催された。イケムラレイコ氏は、2014年にケルン・アートファイン賞が授与された。
オープニング:7月1日、作家出席
出典:ケンジタキギャラリー
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