ポートレート

C.H.R., 2019, tempera on nettle, 40 x 30 cm © Leiko Ikemura and VG Bild-Kunst Bonn, 2021. / Photo: Jörg von Bruchhausen.

本展は人物のポートレート作品に特化し、ポートレートが持つ表現のなかでも最も多様な形態をまとめて展示しています。ポートレートも現在重要なジャンルのひとつとなっており、その絵画的な内容は常に更新され、数多くの芸術的コンセプトのなかで繰り返されるテーマです。直接顔を合わせて会うことのない今、ポートレートというテーマの魅力がより輝きます。

トーマス・ルフは1980年代にポートレートに取り組むようになりましたが、その際に選ばれた手法は、正面から見た半身像のポートレートから感情の動きや身振り・表情といったものを取り去って中立的に表現することでした。大版の作品では被写体人物の内面を見せずにただ表面だけを写しとり、それによってポートレート写真が持つ本来の意図を問うています。対照的にトーマス・シュトゥルートは個人、カップル、家族をプレートカメラと長時間露光で撮影しています。彼のポートレートが示すのは、心理的に深いところから呼び起こされるような被写体人物への感情移入であり、2007年にフィラデルフィアで展示された作品「フェルゼンフェルド/ゴールドファミリー」のように、私的な親密さのなかで人物を描き出しています。

他の作家と見間違えようのない作風を持ち、力強く、抽象へとつながっていく絵画を制作しているチェコの画家ヤン・メルタが描いた、作家であり詩人でもあるダニイル・ハルムスのポートレートは見る者に強く訴えかける力があります。メルタは、ハルムスが共同で設立した芸術家協会OBERIU(前衛文学結社オベリウ)のメンバーであるかのように、ロシア・アヴァンギャルドにみごとに溶け込んでいます。

スラヴォミール・エルスナーは、色鉛筆で描いた斬新な女性のポートレートで私たちを魅了しています。精細さと不明瞭さをあわせもつこの絵はぼんやりとした記憶のようでありつつ、美術史におけるアイコンとしての女性と日常生活のなかで見られる女性の顔の両方が描かれています。

今回初めてイケムラレイコの作品群からポエティックなポートレートを展示します。伝統的なテンペラ技法を用いてイケムラが応えるのは、写真をもとにした芸術家のポートレートであり、素早く描かれたトランス状態にも見えるような裸体画や、ほとんどは連作として制作したものです。そのときの気分によってある人物や同じ人物がキャンバス上で全く異なって立ち現われます。それらが喚起する夢見心地のような瞬間は、眠っている像も鉱石の頭部のなかで同じように感じているだろうと思わされるものであり、日本人・スイス人美術家の作品を特別なものにしています。

「A.O.: R」とは、トーマス・ツィップの新しい肖像彫刻作品のタイトルであり、Abstract Object(抽象的オブジェクト)の略とダダイズム的な感覚に満ちた、肩に座るペットのような、攻撃的に転がるRからなっています。この作品はわれわれの現在の状況を反映しているかのようです。

絵画、写真、彫刻という多数の「来場者」を歓迎するとともに、ソーシャル・ディスタンスの時代となったまさに今、本展に参加してくださった出展作家の皆様に感謝いたします。

出展作家:Helene Appel, Janis Avotins, Stephan Balkenhol, Steven Claydon, Martin Creed, Slawomir Elsner, Eberhard Havekost, Thomas Helbig, イケムラレイコ, Alex Katz, Goshka Macuga, Jan Merta, Florin Mitroi, Sophie Reinhold, Thomas Ruff, Thomas Struth, Florian Süssmayr, Thomas Zipp

 

出典:Galerie Rüdiger Schöttle online

プレスリリース

 

Galerie Rüdiger Schöttle(ギャラリー・リューディガー・シェットゥル)
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Germany