出展作家:トム・アンホルト、キャサリン・ブラッドフォード、フレイア・ダグラス=モリス、ラスムス・エックハルト、オマール・エル・ラヒブ、イケムラレイコ
「霧に包まれた光景はより偉大でより高貴に見え、見る者の想像力と期待感を高める......一般的に、目と想像力は、誰の目にも完全に明白なものよりも、漠然とした距離のほうに引き寄せられやすいものだ。」カスパー・ダーヴィド・フリードリヒ
ラーセン・ワーナーは、トム・アンホルト、キャサリン・ブラッドフォード、フレイア・ダグラス・モリス、ラスマス・エックハルト、オマール・エル・ラヒブ、イケムラレイコをフィーチャーしたグループ展「霧のなかの旅人(Travellers in The Mist)」を開催いたします。
展覧会のタイトルは、アメリカの先住民族オーセージ族からインスピレーションを得たものです。部族内には「霧のなかの旅人(Moh-sho-tsa-moie)」がおり、部族が急激な変化に陥ったりなじみのない領域に足を踏み入れたりするたびに、率先して行動していました。「霧のなかの旅人」展はこのフロンティア精神を反映する作家たちを紹介するとともに、既知の時空には存在しないかのように思える現代絵画に対して豊かな視点とメディテーションを提供します。各作家の謎めいた作品は絵画的な戦略を縦横無尽に駆使することで生み出され、安易なカテゴライズに抵抗しています。また、絵画の表層のなかで絶え間なく再発明・再構築しようとする作家の欲求によって多層的な物語が生み出され、深遠で変容的な体験を得ることができるのです。
トム・アンホルト(イギリス、バース生まれ)の作品によく見られるのは広大でメランコリックな風景であり、見る者は彼の創りだすあいまいで詩的な世界に心を奪われます。「ブラザーズ・キーパー」(2024年)では夜光のでなかで揺らめくような紫、赤、ピンクの漆黒のプールのなかに、光そのものを描き出す並外れた技量が見られます。月光に照らされ、帽子をかぶった人物が木の下に一人座っています。黒っぽいうねうねとした枝が画面を横切って伸びている様子はカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの寓意的な情景を思い起こさせます。その人物は遠くにいるもう一人の謎めいた人物を見つめ、夜のなかへと漕ぎ出しています。アンホルトは個人的な感情や経験を伝えると同時に、別の時間と場所へと連れて行ってくれる入口となる絵画を描くことに成功しています。それはリアリズムの感覚に根ざしつつも、現在という意識から解放されているように思われます。
キャサリン・ブラッドフォード(アメリカ、ニューヨーク生まれ)は、アメリカで最も重要な現代美術画家の一人とみなされています。物語性の高い具象的なペインティングに対してブラッドフォードは独自性の高い非常に個性的なアプローチを持ち、甘美で魅惑的な見た目の作品を生み出しています。ブラッドフォードの高度な色彩と色調のセンスはまるで万華鏡のようです。「下から照らされて(Lit from Below)」(2023年)ではネオンピンクと深い赤の鮮やかな染みが脈動し、その横には濃い茄子色の紫と草の緑が陰影をなし、キャンバスの中央を鮮やかな青が鮮烈に横切ります。緑のスカート姿の人物(ブラッドフォードの作品に繰り返し登場する象徴的なモチーフ)がプールを見下ろし、そこで泳ぐ人々は上空の星座に映し出されています。作品のなかで繰り返し夜の情景へ立ち帰ってくることは作家自身がこう語っています。「ノクターンに魅力を感じるのは、夜の大海原には神秘的な雰囲気があり、星や燐光などの光がドラマチックなコントラストを生み出してくれるからです」
フレイア・ダグラス=モリス(イギリス、ロンドン生まれ)は、思い出の場所や想像上の場所にインスパイアされた鮮やかな色彩の風景画で有名な画家です。あらゆる形状の絵の具をあやつる洗練された巧みな能力によって、ダグラス=モリスは水面下で振動しているような絵画を制作しています。そこではパステル調の色彩が儚い蛍光色の閃光とともに変容し、魅惑的な色彩の組み合わせを見せてくれます。「光の雨(Light Rain)」(2024年)が描くのは広大なパノラマ風景です。孤高の山々がライラック、濃いオレンジ、青、緑といったフォーヴィスム調の色彩で精巧に描かれています。並んで描かれている蛇行した川が見る者の視線を画面水平方向に誘導し、旅の物語を聞いているような感覚をもたらします。広大な空は、薄く塗った絵の具のヴェールで覆ってしまうのではなく、遠くで降り注いでいる雨の下向きのストロークを描いています。さらに、長い冬が終わり生命を吹き込まれた小さな花々がこの風景画を彩っており、ロンドンで最近開催されたレーマン・モーピンでの個展で発表された作品のテーマを引き継いでいます。
イケムラレイコ(日本、津市生まれ)の芸術には、東洋と西洋、伝統と現代など、別々であるはずの世界をひとつにする独自の力があります。彫刻から絵画にいたるまで、イケムラのたぐいまれなる特異なヴィジョンは、区分けやカテゴリーといったものを無視し、境界線がつねに流動しているかのような世界を創り上げてきました。「霧のなかの旅人」展では、ペインティング作品の「ピンクスケープ」(2021年)と「ピンクスカイ」(2019年)、そして彫刻作品の「きつね女」(2012年)が展示されます。イケムラはターコイズブルー、ピンク、イエローの色調で薄くウォッシュを行っています。これらの薄い淡彩のヴェールによって、画面の向こう側から現れ出てくるような印象の風景になっており、認識と錯覚の間を絶えず行き来しているように見えます。風景をつかまえたと思った次の瞬間には、画面の向こう側へするりと逃げていってしまうのです。抽象と具象の境界線がぼかされつつも巧みにバランスをとっているイケムラの作品にはエネルギーと感情が宿っており、人と自然、そして宇宙の三者が生み出す流動的な関係を表現しています。
レバノン人アーティスト、オマール・エル・ラヒブ(レバノン、シドン生まれ)の絵画は具象と抽象のあいだで揺れ動き、制作のコアとして自然と人間性の探求が中心となっています。あざやかな色彩で描かれた豊潤な印象の風景画にはしばしば孤独な人物が登場し、異世界の情景のなかを探検する様子が描かれます。理論とプロセスの両方に深く根ざしつつ、エル・ラヒブは、美術史上の絵画、写真、自身の個人的な経験など、無数のソースからインスピレーションを得ています。「万全のガード(Well Guarded)」(2022年)では、ピンクの帽子をかぶった一人の人物が、建築物や自然の風景を探検しています。その人物が巨木の葉に触れているシーンは見る者の視線をキャンバスの上下垂直に導きますが、一方でその視線は見る者に向けられ、まるでこの世界に入って一緒に探検しようと手招きしているかのように思えます。画面に用いられたピンク、グリーン、オレンジ、ライラック、ブルーの色調は物語と組み合わさって神話的な雰囲気を醸し出し、日常を超越した絵画体験を提供しています。
ラスムス・エックハルト(デンマーク、コペンハーゲン生まれ)の作品には別世界へと引き込むような魅力があります。エックハルト自身の個人的な体験にもとづいて、柔らかに描き出される風景や人物は現実みがあり身近に感じられますが、その現実は決して完全には把握できないのです。エックハルトはソフトパステルの繊細な筆致で加工の荒いざらざらしたボードに描いていきます。その後、表面はサンドペーパーやブラシで磨き上げられ、それぞれの色は彩度を帯びたり消えたりして全体として融合します。エックハルトが創り出す世界は、夢と現実のはざまにあります。彼自身こう語っています。「私は、私たちの世界の現実を再現しようとは思っていません。ただ垣間見ようとしています。私が興味を持っているのは、すぐに過ぎ去っていく一瞬の魔法、持ち続けることのできない、ゆっくりと消えていく記憶です。」
開館日時:火曜日~木曜日 12~18時、金曜日 12~17時、土曜日 12~16時
出典:ラーセン・ワーナー
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