「これから（Von nun an / From now on）」は没入体験型の直感的・多層的な展覧会で、クンストハレ・ロストックを代表する建築となる新館「シャウデポ」のために企画されました。この展覧会はいわばインタラクティブなひとつのショーであり、来場者とアーティストはショーを構成する者として同じく扱われ、身体と身体性、社会、そして現代のグローバルな環境を反映する感覚的な舞台になるのです。
2021年、新型コロナでの二回目のロックダウンの際にも、クンストハレ・ロストックは精神分析学者でもあるクレメンス・クラウスを招き、パフォーマンス「デポ」を行いました。通常クンストハレの収蔵庫には来館者は立ち入ることができませんが、そこで来訪者との個人セッションがほぼ2カ月にわたって毎日行われました。このプロジェクトの参加者は当時改装中だったクンストハレに個別に入場し、クレメンス・クラウスと対面しました。クラウスはパフォーマンス期間中ずっと、ベルリンのスタジオから大型スクリーンとカメラを用いたデジタルでの生中継を行っていました。このような美術史的にもめずらしい状況で、参加者は美術館の収蔵庫のなかでデジタル接続されたアーティストと二人きりになり、親密な対話を通じて一緒に「作品」を作り上げたのです。
このパフォーマンスについての録画や録音はありません。観客もいません。このプロジェクトは従来の意味でいえば記録不可能なものであり、その瞬間、その状況、その場での体験だけが芸術作品となるものです。何かを動かそうとする力はさらなる理解へのプロセスへとつながります。何かを動かすということ、ずらしたりおしのけたりすることが、内的精神の秩序を回復してくれるのかもしれません。特に政治的、社会的、経済的、そして生態学的な力が私たちの社会に影響を及ぼしている今の時代には。その結果、一種の再編成のプロセスが生まれ、それはうまくいけば最後には進歩や「成熟」のかたちをとるでしょう。芸術が担う社会的機能というのがクレメンス・クラウスが制作においていちばん関心を寄せることがらです。
テレーザ・デ・アルーダのキュレーションによる展覧会「これから、人生で一番幸せな時間を過ごしたい」は、パルクールというアイディアにそって、様々なメディアによる作品がクンストハレのシャウデポの全エリアに展開されます。いわば作品すべてがひとつのまとまった作品となっています。アーティスト、作品、来場者の（象徴的な）存在と不在のイメージや表現、そして展示にかかわるものすべてによる共同構築というアイデアからこの一連のノンリニアな展示が発展してきました。「デポ」プロジェクトに参加した数多くの人々と個人的な経験、注目される転換点となる現代を生きていること、そして非常に個人的でエモーショナルな印象や取り組みについて集中的に対話したクラウスの経験は、展覧会のコンセプトのなかに生きています。それと同時に、既存の作品とこの展覧会のために制作された作品の両方が建物と展覧会の性格をかたちづくることで、クンストハレ・ロストック自体が有機的でエモーショナルなものへと変貌をとげます。ここでデポへと立ち帰りましょう。美術館のコレクション内の個々の作品はクレメンス・クラウスによって利用されるリファレンスとなります。ここでも分析的な聞き取り調査の後に、記憶し、反復し、拡大することで芸術的にいわば咀嚼されます。2021年以降制作の絵画、写真、オブジェ、サウンド・インスタレーションなどの厳選された目新しい作品群は、今後のさらなる対話のなかへと置かれます。
クレメンス・クラウスは1984年グラーツ生まれ、2009年よりベルリンに定住しています。社会的、政治的、文化的文脈における精神物理的存在としての人間個人をテーマにした作品を繰り返し発表し、国際的に数多くの施設での個展やグループ展で紹介されています。アートスペース・インスブルック（2019年）、ハバナ国際ビエンナーレ（2019年）、ベルリンのハウス・アム・リュツォウプラッツ（2021-2022年）などで参加型の展覧会プロジェクトを実現してきました。クラウスはこのアート・プラクティスを「これから」展に接続し、ラディカルな方法で継続しています。
出典：クンストハレ・ロストック
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